人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

タイトルでかなり期待させられたが、人を原子として扱える実例が期待ほどには多くなく個人的には残念だった。全体的に「書誌学になってしまった社会学(と、机上の空論になってしまっていた経済学と)に統計物理学の考えを取り入れたことによりパラダイムシフトが起こりました」ということが話題の中心であると思う。以下、面白いと思ったエピソードをメモしておく。

・ハンガリーのブダペストのある乗客数の多いバス路線
 に3台のバスを配備したが、遅れも混雑も解消されなかった。
 ここで思い切って、1台のバスが停留所で乗り降りしている最中には
 どんなことがあっても(たとえ、一台に乗れない数の乗客が待っていても)
 他のバスはこれを追い越すこと、とルールを変えたら全体的な
 遅れや混雑が解消された。

・ロンドンのミレニアムブリッジで起こった振動は、全員が揺れにあわせて
 バランスを保とうとした結果増幅された。

・0-100のいずれかの整数を投票するゲームで、全員の投票した
 数の平均値の2/3に一番近い人が優秀、とすると合理的な投票は
 何になるか?(シカゴ大学 リチャード・セイラー)
  - まず全員が0-100までまんべんなく投票した場合は
   平均値は50になるので、33に投票すれば優勝
  - 33に皆が投票すると仮定すると平均値は
   33になるので、22に投票すれば優勝
  - …と続けていくと、全員が合理的であれば
   みな0に投票するので、2/3は0になる。
  →だが実際の平均値は、18.9だった。多くの人は
   33か22を投票していた。

・「お気に入りのバーが空いている日に飲みに行く」ゲームは
 「株式を安く買って高く売る」ゲームと基本的な構造が同じ。
 それぞれのプレイヤーがどのような個別の戦略で
 プレイしていても、「常に少数派のほうにいる人が勝ち。
 みな少数派に入りたがるので、少数派の戦略はすぐに模倣されて
 多数派になってしまう」という全体的な構造は同じ。 

・ひとは裏切りを見ぬくのが得意、同じ問題でも
 「不公平」や「裏切りを」探す問題に変換すると
 正解率がぐんと上がる。

・コンピュータシミュレーションで(1)誰とでも協力(2)誰でも裏切り
 (3)同じ色のプレイヤーだけ協力(4)違う色のプレイヤーとだけ協力
 という4つの戦略を持ったプレイヤーを用意しどの戦略が残るのか
 シミュレーションした。色にはなんの意味もない。
 結果、(3)の戦略が優勢だった。
 (アクセルロッド、ハモンド)

以上。